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『ビューティフル・マインド 』シルヴィア・ナサー
2014年04月14日(月)
A Beautiful Mind:Genius,Madness,Reawakening The Life of John Nush

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 日本語版の副題は『天才数学者の絶望と奇跡』と、いささか情緒的。
 原語版では『天才、狂気、再覚醒』と、より内容に即した言葉が使われている。

 この原作よりも、ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ主演でアカデミー作品賞、監督賞など主要4部門を受賞した2001年の映画化作品のほうが有名だろう。
 ぼく自身はそちらは未見だったが、主人公のジョン・ナッシュの人物像、また、アメリカでベストセラーとなった数学者の評伝とはどのようなものかに興味があったので、原作本のほうを先に読んでみた。

 前半はナッシュとその妻アリシアの半生記であると同時に、数学がアメリカのアカデミズムだけでなく、政治、軍事、経済においてどのような役割を果たしているかがわかりやすく説明された解説書となっている。
 当然、一般読者にはわかりにくい公式が頻出する部分もあるものの、ぼくのような数学音痴にも退屈させずに読ませる作者ナサーの力量には恐れ入った。

 もちろん、評伝としての読み応えも十分。
 ナッシュの女性遍歴や同性愛スキャンダルについて率直に記述しているくだりもさりながら、ナッシュが何度も統合失調症の症状を呈し、精神病院に入退院を繰り返す後半の迫力は鬼気迫るものがある。

 とりわけ、ナッシュが妄想を書き綴った手紙を引用し、カフカの作品になぞらえ、ナッシュの心の襞を一枚一枚めくっていくかのような描写が凄まじい。
 有り体に言うと、キチガイの行動を描写しながらキチガイの頭の中へ入っていこうとしているわけだ。
 果たして、これを書いているナサーの精神的疲労度たるや如何ばかりだったか。

 ただし、いささか実証主義に偏り過ぎ、読み物としては平板になってしまった感もなくはない。
 これだけ浮き沈みの激しい人生を歩んだ人物なら、もっと波乱に富んだドラマ性を強調した作品にもできたはず。

 ナサーはニューヨーク・タイムズの記者で、この作品を完成させるために会社を休職して執筆に専念したという。
 しかし、大先輩デヴィッド・ハルバースタムのようなストーリー・テリングの才能は持ち合わせていなかったのか、あえてそういう書き方を避けたのか、非常に長い新聞記事を読んでいるかのような印象が拭えなかった。

 ト、分不相応なケチを付けてしまいましたが、傑作であることは確かです。
 映画版では同性愛スキャンダルなど、エグい部分がかなり端折られているそうなので、すぐにでも見たいとは思いません。
 WOWOWで放送されれば見るけどね。

(発行:新潮社 新潮文庫 翻訳:塩川優 第1刷:2013年11月1日 定価:1200円=税別/単行本発行:2002年3月 新潮社)