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『厭な物語』文藝春秋・編
2017年10月16日(月)


 前項の別冊映画秘宝『厭な映画』はひょっとしたら、この文春文庫のアンソロジーを真似たタイトルかもしれない。
 もっと遡れば、同工異曲の「厭な」シリーズがまた別の出版社から出ている可能性もありますが。

 映画もそうであるように小説もまた、いくら「厭な」作品とはいえ、ただ後味が悪いだけでは読んで損した気分にしかならない。
 何とも言えない「厭な」雰囲気の中にも、読者の琴線に触れ、実人生において重要な何かが感じ取れるか否かが成否を分ける、と思う。

 その点、文藝春秋の文庫編集部が独自に選んだというこの選集はなかなかの粒ぞろいである。
 個人的に印象に残った作品を挙げてゆくと、アガサ・クリスティー『崖っぷち』の心理描写、モーリス・ルヴェル『フェリシテ』の幕切れの余韻、フランツ・カフカの『判決 ある物語』の饒舌な文体、ローレンス・ブロック『言えないわけ』の緻密な構成とオチが素晴らしい。

 ごく短いシャーリイ・ジャクスンの『くじ』、リチャード・クリスチャン・マシスンの『赤』も鮮烈な印象を残す。
 こういうアンソロジーの場合、大抵は2〜3本、既読の作品が含まれているのだが、この本は初めて読む作品ばかりで、大いに得をした気分になりました。

 最後に「厭な」読後感を残そうと、解説を最後の1本前に配置し、巻末に大御所フレドリック・ブラウンの古典的名作『うしろをみるな』を持ってきている趣向も心憎い。
 ただ、この作品自体は構造が練られ過ぎていて、うまい、凝ってるなあ、という印象が先に立ち、本書の中で最も「厭な」感じから程遠いけどね。

(発行:文藝春秋 文春文庫 第1刷:2013年2月10日、第3刷:同年10月25日 定価:590円=税別)

 2017読書目録

27『厭な映画』山崎圭司、岡本敦史、映画秘宝編集部(2015年/洋泉社)
26『ペドロ・マルティネス自伝』ペドロ・マルティネス&マイケル・シルバーマン著、児島修訳(2017年、東洋館出版)
25『山怪 山人が語る不思議な話』田中康弘(2015年/山と渓谷社)
24『鷲は舞い降りた[完全版]』ジャック・ヒギンズ著、鈴木光訳(初出1975年、1997年/早川書房)
23『深夜プラス1[新訳版]』ギャビン・ライアル著、鈴木恵訳(初出1965年、2016年/早川書房)
22『女の一生』ギ・ド・モーパッサン著、新庄嘉章訳(初出1883年/新潮社)
21『ホライズン』小島慶子(2017年/文藝春秋)
20『ロバート・アルドリッチ大全』アラン・シルヴァー、ジェイムズ・ウルシーニ著、宮本高晴訳(2012年/国書刊行会)
19『最後の冒険家』石川直樹(2008年/集英社)
18『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』フランク・ブレイディー著、佐藤耕士訳(2015年/文藝春秋)
17『モンティ・パイソンができるまで/ジョン・クリーズ自伝』ジョン・クリーズ著、安原和見訳(2016年/早川書房)
16『勝ち過ぎた監督/駒大苫小牧 幻の三連覇』中村計(2016年/集英社)
15『旅人の表現術』角幡唯介(2016年/集英社)
14『漂流』角幡唯介(2016年/新潮社)
13『雪男は向こうからやってきた』角幡唯介(2011年/集英社)
12『百田尚樹『殉愛』の真実』宝島取材班他(2015年/宝島社)
11『夫のちんぽが入らない』こだま(2017年/扶桑社)
10『1984年のUWF』柳澤健(2017年/文藝春秋)
9『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』角幡唯介(2010年/集英社) 
8『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』呉座勇一(2016年/中央公論新社)
7『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生(2016年/角川書店)
6『うしろの正面だあれ』海老名香葉子(初出1985年/金の星社)
5『この世界の片隅に』こうの史代(2008年/双葉社)
4『これが広島弁じゃ!』灰谷謙二監修(2016年/洋泉社)
3『薬物とセックス』溝口敦(2016年/新潮新書)
2『ミナトのせがれ』藤木幸夫(2004年/神奈川新聞社)
1『誘拐』本田靖春(初出1977年/ちくま文庫)