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『小さいおうち』(WOWOW)
2016年05月30日(月)


 直木賞を受賞した中島京子のベストセラー小説を松竹の名匠・山田洋次が映画化した作品。
 松竹映画のいわゆる大船調は肌に合わず、山田作品も好んで見るほうではないのだが、本作は非常に面白かった。

 開巻、独身のまま孤独死した布宮タキ(倍賞千恵子)の告別式から物語は始まる。
 最初にタキの遺体を発見したのは孫娘(夏川結衣)の弟、大甥に当たる健史(妻夫木聡)だった。

 健史は生前、タキに自叙伝を書くよう勧めており、タキが大学ノートに綴った文章に目を通しては助言を続けていた。
 という健史の回想から、ストーリーはタキの生い立ちを追う本筋へ入ってゆく、という語り口がまずうまい。

 昭和11年、まだ10代だったタキ(この時代は黒木華)山形から東京へ出てきて、玩具会社の重役・平井(片岡孝太郎)の家で女中奉公を始める。
 妻・時子(松たか子)、一人息子・恭一(幼年期=秋山聡、少年期=市川福太郎)の家族で暮らす赤い屋根の家がタイトル
の「小さいおうち」だ。

 時子はやがて、平井の家に出入りするようになった玩具のデザイナー板倉(吉岡秀隆)と何度か顔をあわせるうち、不倫の関係を持つようになる。
 最初からそうした経緯がはっきりと示されるわけではなく、時子の日ごろの態度、締め直した帯、平井家に出入りする親戚の女たち(室井滋、あき竹城)の噂話などでそれとなく匂わせている手際がまた実に巧み。

 時子と板倉の関係が町中に知られつつあった昭和16年、日本はアメリカと太平洋戦争に突入する。
 教科書やマスコミでは「暗く物騒な世相」と伝えられがちなこの時代、実は一般社会は高揚感に溢れ、庶民は日本の勝利を信じて疑わなかった、とタキが実感を込めて述懐するくだりがまた面白い。

 しかし、戦局が悪化するにつれ、兵役を免れていた板倉の元にもとうとう召集令状が届いた。
 板倉が戦地へ赴く前、もう一度会いに行こうとする時子を、タキは思いとどまるように説得する。

 板倉の下宿の大家夫婦は時子と板倉の関係を知り、町中に言い触らしている、ここでまた時子が会いに行き、その噂が平井や一人息子の恭一の耳にでも入ったらどうするのか。
 どうしても板倉に会いたいのならこちらの家で会ってほしい、会いに来るよう板倉宛に手紙を書いてくれれば、自分が板倉に届けるから、というのだ。

 原作のほうには、平井と時子の間に夫婦関係がなく、タキが時子に恋心を抱いているなど、性生活にまつわるディテールが描き込まれているという。
 しかし、山田洋次はあえてそこまで踏み込もうとはせず、タキはあくまでも平井家の平和と一人息子・恭一のために行動しているようにしか見えない。

 そのため、見方によっては、タキの心情がいまひとつ明確に伝わってこない、という憾みも残る。
 終盤、肝心の部分を書いている最中に「私は長く生き過ぎた」と泣くシーンも、何がそんなに悲しいのか、いったい何を後悔しているのか、わかったようでわからなかったと感じた観客もいるだろう。

 ただし、この映画版は山田洋次の世界としてがっちり作り込まれており、非常に完成度が高いのも確か。
 心地よくノスタルジックな気分に浸り、最後は気持ちよく泣けばそれでいいのかもしれない。

 家族やカップルでの鑑賞向け。
 お勧め度はA。
 
(2014年 松竹 137分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2016リスト
 ※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

48『ミレニアム3 眠れる美女と狂卓の騎士』(2009年/瑞典、丹麥、独)B
47『ミレニアム2 火と戯れる女』(2009年/瑞典、丹麥、独)B
46『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009年/瑞典、丹麥、独)B
45『シンドバッド黄金の航海』(1973年/米)B
44『シンドバッド7回目の冒険』(1958年/米)B
43『水爆と深海の怪物』(1955年/米)C
42『スプラッシュ』(1984年/米)B
41『女と男の名誉』(1985年/米)A
40『バートン・フィンク』(1991年/米)A
39『フューリー』(2014年/米)C
38『バベル』(2006年/米)A
37『インヒアレント・ヴァイス』(2014年/米)C
36『シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』(2016年/NHK)B※未ビデオ化
35『映画 ビリギャル』(2015年/東宝)A
34『終の信託』(2012年/東宝)C
33『ALI アリ』(2001年/米)C
32『キング オブ ポルノ』(2000年/米)B
31『グリーンドア』(1972年/米)B
30『ラビッド』(1977年/加)B
29『ビデオドローム』(1983年/加)B
28『三十九夜』(1935年/英)A
27『第3逃亡者』(1937年/英)B
26『サボタージュ』(1936年/英)B
25『吸血鬼ドラキュラ』(1958年/英)B
24『オオカミは嘘をつく』(2013年/以)C
23『メイズ・ランナー』(2014年/アメリカ)C
22『帝都物語』(1988年/東宝)C
21『座頭市地獄旅』(1965年/大映)B
20『鬼龍院花子の生涯』(1982年/日本ヘラルド)A
19『瀬戸内少年野球団』(1984年/日本ヘラルド)C
18『ダイナマイトどんどん』(1978年/大映、東映)C
17『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝、フジテレビ)A
16『ティン・カップ』(1996年/米)C
15『フォレスト・ガンプ 一期一会』(1994年/米)A
14『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014年/加、米、独、仏)B
13『博士と彼女のセオリー』(2014年/英)A
12『チャッピー』(2015年/米)A
11『荒野はつらいよ〜アリゾナより愛をこめて〜』(2014年/米)C
10『サンダーボルト』(1974年/米)B
9『白い肌の異常な夜』(1971年/米)B
8『刑事コロンボ 第45話「策謀の結末」』(1978年/米)C
7『はぶらし/女友だち』(2016年/NHK)A※未ビデオ化
6『暁の7人』(1975年/米)A
5『ジョニーは戦場へ行った』(1971年/米)B
4『NHKスペシャル 映像の世紀』(1995年/NHK)A
3『刑事コロンボ 第44話「攻撃命令」』(1978年/米)B
2『刑事コロンボ 第43話「秒読みの殺人」』(1978年/米)C
1『ラヴ・ストリームス』(1984年/米)A